この3日間机の上に一枚のハガキが置かれたままとなっている。
文面は以下のようになっている。
(開始 : ママである)
大学に無事入学してから先生に会って、「大学より働け」という言葉に
両親はショックをうけて泣いたけど あたしは今大学生活をエンジョイしています。
先生は社会人にもなったこともないし、先生の割に説明はド下手。苦労したこと
ないやろ。理系もさっぱりできんくせに。今薬学たいへんやけど好き。
非常識な言葉で人を傷つけないで。どっかけで今からでも働いてみたら。
さよなら
(終わり:ドは赤字 / 下線は赤 / 「どっかけで」は?)
宛先は「瀬戸内英語学院様 山田先生へ」とある。私のことである。
差出人は「卒塾生」とある。
朝塾に来て読み、予習の途中でも手が止まって読み、帰る時も読む。
3日間このハガキは机のうえの最も目に付くところに置かれている。
なんと言ったらよいのだろうか。こんな時は「せつない」と言ったらよいのだろうか。
私に宛てられたものである。切ないのである。
本来ならば「卒塾生」さんに返事をさしあげるべきだが、住所も氏名もない。
ここに私の弁明を返事とさせて頂ければと思っています。
また「卒塾生」さんをAさんとさせていただきます。
Aさんへ、
先ずは、遅ればせながら大学合格おめでとうございます。Aさんの努力の成果です。
また、薬学が好きであり、大学生活をエンジョイされているとのこと、安心をしています。
益々の勉強努力が必要な分野です。頑張っていください。
この入学の報告をご両親さまと共に私が頂いた、とあります。また「大学より働け」との
言葉を私がかけたと、とありますが、失礼ながら、この記憶が全くありません。
申し訳ありません。私の記憶にある卒塾生で薬学進学は今年はいません。
もし、仮に進学学部を突然に今年の卒塾生で変更をして、単に私が知らないまま、
このような失態をしでかしたのであれば、私の無礼を伏してご容赦頂きたく存じます。
また、これから希望にあふれて学ぼうとする塾生に、全く別の進路を提示したことを
恥じるばかりです。重ねてご容赦を願います。
ただ、上にも書きましたように、この記憶、ご両親さまのご挨拶を頂いたこと、その事実が
どうしても思い出すことが出来ません。私には「耄碌」とか「失念」で済まされる事態ではなく、
いわば私の職業生命にかかわる問題であり、万死に値するほどの不始末なんです。
でも、Aさん、宛名は「瀬戸内英語学院」とあり、さらに「山田先生へ」とあります。
どうか、私のことであれば、今まで積もった重い気持ちを私に直接ぶつけて頂ければと存じます。
その負の思いを払ってこれから勉強に励んで欲しいのです。これまでの苦しい思いを今度は
私が何倍にもなって背負うのは当然の責務です。
Aさんが思いを馳せなければならないのは「薬学」なのです。過去の苦しい思いを私にドッと
おんぶさせて当然なのです。なんの躊躇もいりません。仰ってください。
私の授業に関して「説明がド下手」との言葉、激しく悔みます。さらに授業の工夫に精進し、
後輩たちの塾生には出来るでけ理解できる授業を致します。
「社会人云々」とのことですが、実は、若い頃の塾を始める前の60日間ある企業で激しく
しごかれましたし、また塾を兼ねながらも、公立中学三ヶ月、私立高校1年、
県立高校2年間の英語教師としての実務があります。同僚・先輩教師からも様々な
指導を頂戴しました。それでも、まだまだ鍛錬の時期と思っています。
Aさん、あなたに本当は直接ご返事を出さねばならないのですが、
このような手続きとなりました。ご配慮を願います。
ハガキの文面を載せたことにもご配慮を申し上げます。
そんなことはないかも知れませんが、いつの日か笑いながらこのハガキの話ができる
ことを祈るばかりです。
要領を得ない、長文となりました。私の弁明です。お聞きとどけ頂ければと存じます。
「卒塾生」のAさんへ。
瀬戸内英語学院 山田純一拝
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